前橋地方裁判所高崎支部 昭和59年(ヨ)142号 判決
一 債権者が本件意匠権を有していること及び債務者が昭和五九年秋ころからイ号物件を製造販売していることは、いずれも当事者間に争いのない事実である。
二 本件意匠の構成について
成立に争いのない疎甲第二号証、第六号証(本件意匠登録証と同意匠公報)と弁論の全趣旨によれば、本件意匠は(1)丸棒の一端に、(2)長さをその丸棒の約三分の一としてその上側辺を外方に向け若干拡開させ、その下側辺を断面鋭角の二枚翼として外方に向け若干拡開させた溝形形状の器具(以下「フレーム」という。)を、その中央において前記丸棒の軸線方向に直角に取り付け、(3)フレームにはその上側辺にその全長にわたつて先端を斜め上向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(こすりとり部)を固着するとともに、その下側辺にはその全長にわたつて先端を斜め下向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(払拭部)の基部を前記断面鋭角の二枚翼間に挟着して取り付け、(4)他方、前記丸棒の他端にはその丸棒の長さの約六分の一にわたる歯ブラシ形状の刷毛群を、その植毛方向がフレームの長手方向と平行で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものであることが一応認められる。
三 イ号意匠の構成について
証人市川松男の証言により債務者の製品であるイ号物件であると一応認められる疎検甲第二号証及び証人古沢俊明の証言により真正に成立したものと認められ、右疎検甲第二号証との対照からイ号物件の図面と一応認められる疎乙第一〇号証(右疎検甲第二号証に照せば、イ号物件図としては、訴状添付のイ号物件図に比して右疎乙第一〇号証がより正確であると一応認められる。)によれば、債務者の製品であるイ号物件の意匠は以下のとおりであると一応認められる。すなわち、(1)丸棒の一端に、(2)長さをその丸棒の約四分の一とするとともに、上下幅を該丸棒の約一三分の一としてその上側辺を外方に向け若干拡開させ、その下側辺を断面鋭角の二枚翼としてやや後方に向けて成るジグザグ状の器具(以下「フレーム」という。)を、その中央において前記丸棒の軸線方向に直角に取り付け、(3)フレームにはその上側辺にその全長にわたつて先端を斜め上向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(こすりとり部)を固着するとともに、その下側辺にはその全長にわたつて先端を下向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(払拭部)の基部を前記断面鋭角の二枚翼間に挟着して取り付け、(4)他方、前記丸棒の他端には、その丸棒の長さの約三分の一にわたるはけ状の刷毛群を、その植毛方向がフレームの長手方向と直角で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものである。
四 本件意匠の要部について
一般に意匠はそれによる物品の外観が視覚を通じて全体として美感を起こさせるものであることに伴い、その類否の判断に際しても外観を部分的に判断するのではなく、全体観察による総合判断により、当該意匠の全体形状を見る場合に強く看者の注意を惹く部分を当該意匠の要部ないし特徴として把握し、これを観察して一般需要者が誤認、混同するかどうかという点から決すべきものであるが、そのように類否を決するに当たつても当該意匠に公知意匠に基づく公知の形状が含まれている場合には、全体観察による総合判断の姿勢を維持しながらも、特段の事情のない限り、右公知の形状は強く看者の注意を惹く部分でも、他の同種の物品と識別される徴表でもないから、その部分は意匠の類似範囲を画定するための要部とはならず、公知意匠にない新規な部分で、強く看者の注意を惹くと認められる部分が要部となり、その要部となる新規な部分を全体との関係において検討するのが相当である。
そこで、本件意匠の要部について検討するに、前掲疎甲第六号証、いずれも成立に争いのない疎乙第三ないし第五号証の各一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる疎乙第一九号証によれば、
(一) 第(一)号意匠は、昭和三〇年六月八日、アメリカ合衆国特許庁に対して登録出願され、同三三年一〇月二一日に同庁に登録されたこと
(二) 第(二)号意匠は、昭和三二年一〇月二三日、同庁に登録出願され、同三四年七月二八日に同庁に登録されたこと
(三) 第(三)号意匠は、昭和三一年四月四日、同庁に登録出願され、同三七年一月二三日に同庁に登録されたこと
(四) 第(四)号意匠の物品は、遅くとも昭和四二年一二月ころまでにはUSAエンパイヤブラシ社スノーブラシとの名称で本邦内で販売されていたこと
(五) したがつて、本件意匠が債権者により特許庁に出願された昭和四六年一一月一六日には、右第(一)ないし第(四)号意匠がいずれも公知であつたことがそれぞれ一応認められ、債権者が本件意匠出願当時既に公知となつていた右第(一)ないし第(四)号意匠に照らして考えると、自動車の窓ガラスに付着した霜をとり除く物品の意匠としての「柄(ないしは棒)の一方に霜掻きとり部材を、また、その他方に刷毛群を設ける」という基本的形状は、本件意匠出願前に公知であつたと認められる。そうすると、本件意匠は、右基本的形状が特に看者の注意を強く惹くものであるということはできないから、右基本的形状にその意匠としての要部があるとは認められず、右基本的形状に附帯するフレームと霜掻きとり部材とから成る部分の形状及び刷毛群の形状に由来する全体的な印象等、細部にわたる外観にその要部があるといわなければならず、これと異なる認定判断をすべき特別の事情はない。結局、本件意匠は、(一)フレームの上側辺を外方に向け若干拡開して、そこに霜掻きとり部(こすりとり部)を固着し、また、その下側辺を二枚翼として外方に若干拡開させて、そこに霜掻きとり部(払拭部)を挟着しており、フレームは溝形になつていること、(二)刷毛の毛先が極めて短く、刷毛の束数も少なく、さらに刷毛の植毛幅も小さい、いわゆる歯ブラシ状をなし、右植毛の方向がフレームの長手方向と平行で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものであること、という二点に新規性があり、この点が看者の注意を強く惹く部分と認められるから、本件意匠の要部であるということができる。
五 本件意匠とイ号意匠の類似について
1 以上の疎明事実を前提に本件意匠とイ号意匠とを対比する。
(一) まず、フレームと霜掻きとり部から成る形状について対比するに、前記疎明事実によれば、本件意匠においてはフレームの下側辺が外方に向け若干拡開していてフレーム全体の形状が溝形をなしているのに対して、イ号意匠ではフレームの下側辺がやや後方に向けてあり、フレーム全体の形状がジグザグ状である点に相違がみられるが、その余の点は同一であると認められる。しかしながら、このフレームに霜掻きとり部材(こすりとり部及び払拭部)を取り付けた形状は、払拭部における霜掻きとり部材のエツジ部が本件意匠では斜め下向きになるのに対して、イ号意匠では下向きになるという差異になつて現われるにすぎず、この程度の差異は顕著な差異とはいい難く、両者の意匠を全体的に観察した場合、特に異なつた印象、別個の美感を看者に想起させるほどのものとは認められない。
(二) 次に刷毛群の形状について対比するに、前記疎明事実並びに前掲疎甲第六号証、疎検甲第二号証及び疎乙第一〇号証によれば、本件意匠では毛先が短く(フレームの長さを同一として測定すると、本件意匠の毛先はイ号意匠の長さの約二分の一となる。なお、以下の対比においても同様の方法による。)さらに刷毛の植毛幅も小さい(イ号意匠の約四分の一にあたる。)、いわゆる歯ブラシ状であるのに対し、イ号意匠のそれは毛先が長く、刷毛の束数も多く、さらに刷毛の植毛幅も大きいはけ状をなしており、本件意匠の丸棒の長さがイ号意匠の丸棒の長さの約三分の二であることを考慮に入れてもなお、両者の意匠の刷毛群の形状に顕著な相違がみられるうえ、その植毛方向も、本件意匠ではフレームの長手方向と平行で、かつ、一直線上に取り付けられているのに対し、イ号意匠ではフレームの長手方向と直角で、かつ、一直線上に並列して取り付けており、この点においても両意匠の間に顕著な相違がみられ、こうした刷毛部にみられる相違は、両意匠を全体的に観察したときかなり強く異なつた印象、異なつた美感を看者に与えるものであると認められる。
2 右五、1、(一)・(二)を総合すると、本件意匠とイ号意匠はその外観の全体観察によると、そのフレームと霜掻きとり部から成る形状については顕著な差異はなく、看者に特に異なつた印象、別個の美感を想起させるほどのものではないものの、両意匠の刷毛群の形状・植毛方向には顕著な相違がみられ、それは看者に対して、異なつた印象、異なつた美感を与えるほどの外観を有しているのであるから、その結果として、本件意匠の物品とイ号物件とは全体として一般需要者に異なつた印象、異なつた美感を与える外観を有していることになり、その間の混同を生じさせるおそれはないものと認められ、したがつて、両意匠は類似するものではないと認定するのが相当であるから、債務者がイ号物件を製造、販売などすることが債権者の有する本件意匠権を侵害するものでないことは明らかである。
3 ところで、疎甲第四号証、第一五号証の各鑑定書は、本件意匠とイ号意匠とは類似するとするけれども、疎甲第四号証の鑑定書は、本件意匠の要部についての検討を全く行わず、単に本件意匠とイ号意匠との構成要素の対比のみで類否判断をしているにすぎず、また、刷毛群の形状に関する対比も十分に行われていないので、およそ採用し難く、また、疎甲第一五号証についても、両意匠の類否判断は公知、周知意匠を勘案して行わなければならないとしながらも、この点について何ら具体的判断を示していないのであるから、これもまた採用するに由なく、結局、疎甲第四号証、第一五号証をもつてしても、前記疎明を覆すには十分でなく、他に右疎明を左右するに足りる証拠はない。
六 以上の次第であるから、本件仮処分申請は、被保全権利の疎明を欠くものというべきであり、保証を立てさせて疎明に代えることも相当でないから、その余の点について判断するまでもなく、失当として却下する。
〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。
一 債権者の申請の理由
(被保全権利)
1 債権者は、左記意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件意匠」という。)を有している。
記
(一) 登録番号 第三六三九四七号
(二) 出願年月日 昭和四六年一一月一六日
(三) 登録年月日 昭和四八年三月一九日
(四) 意匠にかかる物品 自動車用霜とり具
2 本件意匠の構成は、別紙意匠公報記載のとおりであり、その特徴は次のとおりである。
丸棒の一端に長さをその丸棒の約三分の一、上下幅をその丸棒の約一〇分の一として、その上側辺を外方に向け若干拡開させるとともにその下側辺を断面鋭角の二枚翼として外方に向け若干拡開させた金具をその中央において右丸棒の軸線方向に直角に取り付け、右金具にはその上側辺にその全長にわたつて先端を斜め上向きのエツジ部とする霜掻きとり部材を固着するとともにその下側辺にその全長にわたつて先端を斜め下向きのエツジ部とする霜掻きとり部材の基部を前記断面鋭角の二枚翼間に挟着して取り付け、他方、右丸棒の他端には、丸棒の長さの約六分の一にわたる刷毛群を一直線上に並列して取り付け、もつて、自動車用霜とり具として機能するよう構成したものである。
3 債務者は、昭和五九年七月ころから、別紙イ号図面表示の自動車用霜とり具(以下「イ号物件」という。)を製造、販売しているが、イ号物件の意匠(以下「イ号意匠」という。)の特徴は次のとおりである。
丸棒の一端に長さをその丸棒の約四分の一、上下幅をその丸棒の約一三分の一としてその上側辺を外方に向け若干拡開させるとともにその下側辺を断面鋭角の二枚翼とした金具をその中央において右丸棒の軸線方向に直角に取り付け、右金具にはその上側辺にその全長にわたつて先端を斜め上向きのエツジ部とする霜掻きとり部材を固着するとともにその下側辺にその全長にわたつて先端を斜め下向きのエツジ部とする霜掻きとり部材の基部を前記断面鋭角の二枚の翼間に挟着して取り付け、他方、右丸棒の他端には丸棒の長さ約三分の一にわたる刷毛群を一直線上に並列して取り付け、もつて、自動車用霜とり具として機能するよう構成したものである。
4 本件意匠とイ号意匠の比較
本件意匠とイ号意匠とを比較すると、霜掻きとり部材を上下側辺において固着ないし挟着する金具の形状及び各構成要素の寸法比率にわずかな差異が認められるものの、かかる差異点は視覚上の印象が弱い部分的な小差にすぎず、本件意匠の要部である「細長い丸棒の一端に上方及び下方に二つのエツジ部を突出させた霜とり部分をT字状に形成し、他端に刷毛を一列に並列して取り付ける」という点において、イ号意匠は本件意匠と極めて類似しているのであるから、イ号意匠は、本件意匠に類似するものであつて、債務者がイ号意匠に基づき製造、販売などしているイ号物件は債権者の本件意匠権を侵害するものである。
(保全の必要性)
5(一) 債権者は、秋田刷子製造株式会社(以下「申請外会社」という。)の取締役であり、兄秋田修とともに同社の経営にあたつているが、同社は債権者ら兄弟及びその親族らの完全な同族会社である。
(二) 債権者は、昭和四六年秋ころ、本件意匠を考案し、同年一一月一六日、特許庁に対し本件意匠の登録出願をなし、同年一二月二〇日以降、申請外会社に対し、独占的通常実施権を設定した。
(三) 債権者は、申請外会社から本件意匠の実施料として販売価格(工場出し値)の三パーセント相当の金員の支払いを受けることを約定しており、そのため、申請外会社の本件意匠の実施品の販売量の減少及びその販売価格の低下は、債権者が申請外会社から受け取るべき実施料の減少という損害をもたらす。また、債権者は申請外会社の経営者の一人であり、同会社の利益の低下は、債権者の減収を来すことになり、債権者に損害を与える結果となる。
(四) 申請外会社は、本件意匠の実施品を商品化し、「スノー・スクレーパー」の名称で主として自動車ガラスの雪、霜とり具として製造販売し、北海道、東北地方等の寒冷地において冬期における自動車の必需品として人気を博していたところ、債務者は、昭和五九年七月ころからイ号物件を「スノーブレーカー」との名称で製造販売し、しかも、債権者の「スノー・スクレーパー」より安価に卸売業者に販売するようになつた。また、イ号意匠は、前記のとおり本件意匠に類似しており、「スノー・スクレーパー」及び「スノーブレーカー」は、小売店の店頭において、いずれも同一売場に並べて販売されているため、顧客は両者を混同し、申請外会社の売上の減少を来している。その結果として、スノー・スクレーパーの昭和五九年度の販売量は前年度分と比較して全国の販売総数において二九四六七本、北海道札幌地区において三一三八〇本余りの減少を来した。
(結論)
6 以上の次第であるから、債権者は債務者に対して本件意匠侵害差し止め、損害賠償請求等の訴訟を提起すべく準備中であるが、イ号物件は商品の性格上、冬期にのみ需要のある商品であり、直ちに製造、販売を差し止めなければ、年間を通じて被る損害を防止することができない上、現在の通りの安売りを継続されては、商品の価格を維持できず、商品のイメージにとつて回復し難い損害を与えることは明らかであるので、申請の趣旨のとおりの仮処分判決を求める。
二 申請の理由に対する認否
1 申請の理由1の事実は認める。
2 同2の事実は否認する。
3 同3の事実のうち、債務者が昭和五九年秋ころから別紙イ号物件を製造販売していることは認めるが、その余の事実は否認する。
4 同4の事実は否認する。
5 同5(一)の事実のうち、債権者が申請外会社の取締役であることは認め、その余の事実は知らない。
6 同5(二)及び(三)の事実はいずれも知らない。
7 同5(四)の事実のうち、申請外会社が「スノー・スクレーパー」を販売してきたこと及び債務者が「スノーブレーカー」を製造販売してきたことはいずれも認めるが、その余の事実はいずれも否認する。
8 同6の主張は争う。
三 債務者の主張
1 意匠の類似性を判断する核となる意匠の要部とは物品の取引において識別性を発揮する部分であるから、物品の用途、機能からくる必然的形態のように、需要者に周知されている部分は識別性がなく、意匠の要部とは認められないものである。ところで、自動車用霜とり具は三つの形態に大別され、その三形態は、第一に、細長い棒の先端にT字状の霜掻きとり部分を有するもの、第二に、細長い棒の一端にT字状の霜掻きとり部分を有し、他端に刷毛を一直線上に並列して取り付けたもの、第三に、Iの字の形(ばち形)のものであつて、本件意匠は右のうちの第二の形態に属する。この第二の形態の公知意匠には、別紙図面(一)ないし(四)記載の各意匠(以下、別紙図面(一)記載の意匠を「第(一)号意匠」といい、別紙図面(二)ないし(四)記載の各意匠についても右に準じて表記する。)などがあり、本件意匠とこれらの公知意匠を対照すると、細長い棒の一端に霜掻きとり部分があつて、他端に刷毛があるという形態は自動車用霜とり具としての用途、機能からくる必然的形態であつて、この必然的形態は物品の要部ではあつても、類似意匠判断の核となる意匠の要部とは認められないものである。
2 そこで、本件意匠の要部について、前記公知意匠との対比において検討するに、霜掻きとり部と棒の長さの比は、第(四)号意匠によれば一対五であるのに対し、本件意匠では一対三・二であつて、実に六三パーセント、大まかにみても三分の二以下であり、また、刷毛についてみると、第(四)号意匠と本件意匠では、幅の比が実に四・六対一、毛先長の比が実に二・六対一であり、これは微差とはいいえず、更に刷毛は、自動車用霜とり具としての用途、機能からくる基本的形態としては、その幅が棒の長さ(通常六〇ないし八〇センチメートル)の二分の一から少なくとも三分の一であつて、毛先の長さは、約一〇分の一程度であることが、この種の物品の意匠の常識である。
これらの点からみれば、本件意匠の要部は、(一)歯ブラシ状の毛先の短く、植込み幅の小さな刷毛の部分、(二)溝形となした霜掻きとり部分、(三)霜掻きとり部分の長さの割に短かな柄の部分の組み合わせであり、結局、細長い丸棒の一端に、その植込み幅が丸棒の長さの約六分の一で、毛先が丸棒の長さの約二〇分の一の歯ブラシ状の刷毛を設け、丸棒の他端に、長さが丸棒の約三分の一でコの字形溝形の二つのエツジを突出させた霜掻きとり部分をT字状に設けたことにある。
3 イ号意匠と本件意匠の一致点を挙げるとすれば、柄が丸棒であること、霜掻きとり部分の先端部が鋭角なエツジ部をなし、ゴム製の払拭部が刃物のような鋭角なエツジ部をなしていること及び両エツジ部がアルミなどのフレームに取り付けられていることが挙げられるけれども、右はいずれも意匠の要部に関しないものであり、また、イ号意匠は本件意匠との対比において、刷毛の幅、長さ、量において明白に相違し、かつ、霜掻きとり部の形状もコ字形でなく、<省略>字状をなし、かつ、丸棒と霜掻きとり部の長さの比も著しく異なつているところ、これらの相違部分が本件意匠の要部であるとみることができるので、全体観察上、債務者のイ号意匠は債権者の本件意匠と類似しないものである。
四 債務者の主張に対する債権者の反論
1 意匠の類似性判断の基礎となる公知例とされるものは、当該意匠の要部の部分部分に個々的に対応するものではなく、要部の全体に対応するものでなくてはならないとされるが、第(四)号意匠は霜掻きとり部がT字状ではなくほぼ三角形であり、柄部も丸棒でなく縁取りのある角柱状と認められ、結局、全く本件意匠と相違することが顕著であり、債務者が公知例として主張する第(一)ないし第(四)号の意匠は、いずれも本件意匠とは全体として別意匠と認められるべきものであつて、本件意匠権の類似範囲を限定する根拠となるものではない。
2 本件意匠とイ号意匠は霜掻きとり部の座板部の断面形状において、本件意匠では上面が曲面状になつているのに対し、イ号意匠は上面の一側部が上方に曲がつていて、他の側部が下方向に折れ曲がつている点でのみ相違しているだけであり、この相違は自動車用霜とり具としての意匠にかかる形状としてみるとき、断面形状の差異としてほとんど目立たず、むしろ霜掻きとり部で目立つ部分は霜掻きとり片部の態様であつて、両者はその態様を共通にし、その保持部材にかかる座板部の差異は目に付くところではない。そのうえ、両者とも座板の形状はその長辺が短辺の約三倍の長さからなる長形座板であることを共通にする点を考えれば、右差異は微差にすぎず、全体からみても細部の差異にすぎない。
3 本件意匠の刷毛部は、刷毛の取り付け方向が、霜掻きとり部に対して同一方向であるのに対し、イ号物件のそれは直角方向である点及び本件意匠の刷毛部が短く、イ号物件のそれが長い点において相違するけれども、刷毛の取り付け方向の差異は、看者が本件意匠及びイ号意匠を見る場合、いかなる角度から見ても刷毛部を容易に見ることができるのであり、刷毛の取り付け角度の差異は看者に格別の印象を与えるものではなく、これが全体に与える影響は微弱である。また、刷毛部の長さの差異についても、毛足の長短、繊維の多少は量によつて目立つことになる差異にすぎず、それ故に支配的要素となるものではなく、むしろ自動車用霜とり具としての意匠にかかる形状としてみるとき、霜雪をとる機能を有する刷毛部が柄部の一方の末端に位置し、繊維の束を一列に縦方向に並べたことが強い印象を与えるものであつて、その共通点に比較すれば、右の差異は限られた部位におけるわずかな差異で、全体の類否判断に大きな影響を与えるものではない。
4 債務者は本件意匠とイ号意匠の各部の構成比の差異を強調するけれども、本件意匠とイ号意匠は、霜掻きとり部の長形座板の長辺が短辺の約三倍の点で共通し、柄部と長形座板の長辺の関係は前者が約三倍、後者が約四倍とほとんど差異がない。もつとも、柄部と刷毛部との比だけが前者約六倍、後者が約二倍と相違するけれども、右差異も、両者に共通する、全体としてはほぼ同様の柄部とその一端に取り付けられた霜掻きとり部と他端に取り付けられた刷毛部からなる基本構成に変化を与えるほどの大差ではなく、限られた部位の差にすぎない。
5 以上のとおり、本件意匠とイ号意匠は霜掻きとり部と刷毛部に若干の差異はあるが、両者を全体として観察したとき、丸棒からなる柄部の、その一端に取り付けられた霜掻きとり部と他端に取り付けられた刷毛部からなる基本構成と右各部の関係的配置が看者に強い印象を与える要部ということができ、イ号意匠は本件意匠に類似する意匠で、これに基づくイ号物件は債権者の有する本件意匠権を侵害するものである。
〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
三六三九四七 出願 昭 四六・一一・一六 意願 昭 四六―四二五四八 登録 昭 四八・三・一九
意匠権者(創作者) 秋田忠志 愛知県西春日井郡清洲町大字清洲一一七九番地の一
意匠に係る物品 自動車用霜とり具
<省略>
イ号図面
<省略>
<省略>